桑野造船株式会社
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漕艇初日

9月3日合計27キロ (フリューレン〜ブルンネン〜ブオッホス)

 6時起床、6時半朝食ビュッヘ式でパン、オートミール、ハム、チーズ、ヨーグルトなど。7時半にはバスでフィアヴァルトシュテッテ湖東南端のフリューレンに向かう。そこには既にキャプテン達が5時半に集合して、役員と共に運び込まれた艇にリガーの取り付けを終えていた。

使用艇は、計16艇で全てクオドルプルのナックル艇というべきもの。各地のローイング・クラブから借用している。舵付き4人乗りスカリング艇で、スイスでは、ジュニアの練習用やpleasure rowingに使用されているという。材質は木製、プラスチック製と様々。オールも艇によって木製もありカーボン製もあり、ブレードもスタンダード、マコン、チョッパーと異なる。

艇にはいざというときに備えて艇に浮力をつける空気袋が設置され、ペットボトルを半分に切った「あかだし」も用意される。この湖は山から吹き下ろすフェーン現象があるから用心しないといけないという。またレストラン付きの豪華遊覧船が頻繁と就航していて、その波にも気をつけなければならない。100年の歴史を誇る蒸気船も運航している。気を引き締めなくてはなるまい。

 今日のキャプテンはクリス(オーストラリア)。キャプテンは、期間中同じ艇を預かり、全責任を負う。その代わりに、船尾に自国の国旗を取り付けることが許される。クルーメンバーは、ハンス会長が整調、オーナ(イスラエル)、ソーニャ(カナダ)の女性二人。クリスが航路の説明とシート順を発表。私は2番を漕ぐことになる。薄曇りの空から一条の朝日が湖面に向かって差し込み、なにやら神秘的だ。母校の遠漕歌を思い出す。「♪紅染むる朝霧に墨江十里明けゆけば重き務めの男の子らが雄々しき今日の船出かな」。
 
湖上に16艇が揃うとなかなかの壮観である。それぞれにそれぞれのペースで漕ぎ進める。並べて競うなどということはまずしない。前後のオーナ、ソーニャと周囲の山々を眺めながら「すごいね」「きれいだね」と感嘆してのんびり漕ぐだけだ。地元出身のハンスが「スイス誕生の地」を案内してくれる。湖からしか辿り着けない小さなコテジがひっそりと立つ牧草地だった。伝説の人、ウィリアム・テルが活躍したのもこの近くのはずだ。ロッシーニの序曲が聞こえてきそうだ。風の心配など全く無用の漫漕が続く。
 
12キロ漕いでブルンネンに到着。スイスのドイツ語国名Schweizのもとになる町シュヴィーツの近くの町だ。湖岸にある公園らしき岸に上陸。陸上支援隊がサンドイッチやゆで卵を用意して待ってくれていた。そこはハングライダーの着地点でもあるらしく、空を遊泳する人たちがいる。湖上をヨットの大群が音もなく滑っていく。先に上陸した面々は既にビールを飲みながらの昼食。私は初日だけに大事をとって水だけにするが、ガス入り水なのでビールと同じいい気分になれる。

 この間にクルーメンバー以外の人に声をかける。女性達の中でひときわ目立つのが185センチはあるかという長身のシンディー。アメリカはオハイオ州出身というので「Good Morning Stateから来たんですね?」と話しかけて親しくなった。めずらしくCompetitive rowerを自認する女性で、来月はボストンのHead of Charlesに出場すると意気盛んだ。一緒に漕ぐチャンスはなかったが、別艇の彼女を横から眺めると長い手足を十分生かした大きな漕ぎ方で、これはたいしたものだと感心した。この後、期間中会うたびに「オハイオ!」と挨拶するようになった。

 午後は私が舵を引くことになった。途中交代する予定で、整調はハンス。晴れ上がった空の下どこまでも青い湖上に漕ぎ出す。この湖は複雑に入り組んだ岸線を持ち、たとえるに遠慮はあるが、わが宮ヶ瀬湖を思わせる。ただ見上げる山々の急峻なことと山麓に牧草地が広がっていることで、やはりここはスイスだと思わせる。湖岸に並ぶ家々の一階はモーターボートが格納されていて、大別荘の趣の家が多い。 

 コックス号令を日本語ではどうやるのだとハンスが言う。待ってましたとばかりに「ヨーイロー」の声をかける。スイスの山にこだまして気分良し。5キロほど行ったところでハンスに代わって私が整調を漕ぐ。ハンスが日本語で号令をかけるぞと意気込んだが「よーい」の一語がなかなか覚えられず皆で大笑い。止まるたびに、挑戦するがついに覚えられず。

 地元出身だけに地形に詳しく、4キロほど寄り道してフィヨルド式の湖岸を紹介しようと言う。絶壁の真下まで漕ぎ進んでしばし天を見上げる。湖を北岸から南岸のブオッホスに向かうときに、なにか湖上の規則はあるかと尋ねると、ハンス答えて曰く「何もない。遊覧船が優先というだけ。右側航行やらなにやら一切なし。とにかく自己責任だ。」確かに大型クルーザーが通過するときに何の遠慮もない。大きな波を蹴立てて通り過ぎてゆく。

寄り道したせいで我らが艇が最後に到着。上陸後にクリス艇長がやおら取り出したのがラム酒と銀杯。今日の漕艇に乾杯。お互いに「素晴らしいローイングだった」と讃え合う。艇は湖岸に揃えて、オールも置きっぱなし。全く不安がないわけではないらしいが、基本的には艇にいたずらをする輩はいないだろうと楽観的だ。

 3時前に終了したので、夕食まで時間がある。クニオさんと二人で湖岸道路を散策することにする。道路脇の家に、ナナカマドの赤い実や木槿の花をみつける。湖岸の大邸宅にため息が出る。

 夕食はホテル内のレストラン。料理はすべてクニオさんがデジタルカメラで記録する。心地よい疲れだが心は高揚している。この喜びをまずは家族に伝えようと絵はがきを買い早速切手も買う。切手にはどこにもスイスと書かれていない。HELVETIAとある。ガイドブックで知ってはいたが、なるほどとスイスの正式国名Confoederatio Helveticaを再認識する。そういわれてみると、車にもCHと標記されているし、金額表示のスイス・フランもSFr.だったり、CHFと書かれていることが多い。
私が便りを書いている間に、クニオさんは健やかな寝息を立てている。

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